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令嬢は元暗殺者に恋をする
第64章 報復 -5-
「何だね、そんな渋い顔をして。まさかとは思うが、女にも興味がないというわけではないだろう?」

 当然のことながら、ファルクのくだらない問いかけにハルは答えない。

「まさか、そうなのか? 本当に女に興味がないのか。もしや男の方がいいと? いや、あの娘といい仲になっていたのだから、そういうわけではないはずだな。それとも、ふっ、男も女も両方いける口かね? まあ、そのきれいな容姿なら、男でも食いつきたくなるだろうね。いや……」

 そこで、ファルクはわかった! と膝をぱしりと叩き、歯の抜けた間抜け面でにたりと嫌らしい笑みを作る。

「わかったぞ。ふふふ、おまえは先ほど、お仕置きをするのが得意だと言っていた。つまりそういう性癖の持ち主だというわけだ。ははは、そうか、そうか。もちろん、いたぶられて泣いて喜ぶおかしな趣味の女もいる。ならば、そういう女を……ひっ!?」

 突然、ガラスの割れる音に、ファルクは引きつった悲鳴を上げ言葉を飲み込んだ。
 怖々と視線だけを動かし、ガラスの割れた音、ハルの足元へと目をやる。
 テーブルから落ちて床に転がったワイングラスを、ハルが足で踏みつけていた。

「金の次は、女の話か……品性の欠片もないな」

 聞くにたえがたい。

 蔑む言葉と軽侮の込めた目でファルクを見据えていたハルは、ゆっくりとした動作で身をかがめ、砕けたガラスの破片の一部を拾いあげる。

 欠けたガラスの一片がきらりと鋭い光を放つ。
 手にしたそれで、いったい、どうしようというのか。

「な、何を……そんなものを手にして、何をしようというのだ。まさか、それで私の顔を切り刻もうと……そんなことをしたら、怪我だけでは済まなくなるだろう?」

 やめて、と唇を戦慄かせファルクは首を振る。
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