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令嬢は元暗殺者に恋をする
第64章 報復 -5-
「忘れたか? そう簡単に、楽にはさせないと言ったことを」

 これで許されると思っているのか。

「貴様がサラにしたことを思い出せ」

 思い出せ。サラも今の貴様と同じように助けを求めたはずだ。
 だが、貴様は……。

「悪かった。謝る。私もあの娘に対してあんなひどいことをするつもりはなかったのだ。ついかっと頭に血が昇ってしまって……暗殺者たちの依頼は取り消す。あの娘にもいっさい手を出さないと誓おう。それでいいだろう? だから、許してくれ」

「もう、遅い」

 依頼した暗殺を簡単に取り消せるなどと、この男は本気で思っているのか。いや、この男の言葉など信じない。
 信じるほど、ばかではない。
 この場しのぎの、苦痛から逃れるために、口からでまかせを言っているのだ。

「何でもするから。許してくれ……頼む」

「何でも?」

 そうだと、何度もうなずくファルクのあごから手を離す。
 そして──。

「貴様がすることはただ一つ」

 ハルはもう片方の、握りしめていた手をゆるりと相手の眼前に持ち上げた。

「後悔だ」

 だが、その後悔すらもできないほどに貴様の何もかもを壊してやる。

 握っていた手の指を、相手に見せつけるように小指から順にゆっくりと開いていく。
 手の中から現れたそれを見たファルクの顔が、明らかに凍りついたのがわかった。

「そ、そ、それは……っ!」

 ばかな、そんなはずはない、あり得ないと、ファルクの目がこれ以上はないというほどに開かれていく。

 ハルの手のひらから現れたもの。それは、ファルクがサラに飲ませようと画策していた毒の入った小瓶であった。

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