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令嬢は元暗殺者に恋をする
第65章 報復 -6-
「そ、それだけは……勘弁してくれ。嫌だ、死にたくない……私はまだ死にたくない! それに、そんなことになれば、ゼクス家が崩壊してしまう」

 何を今さらだ。見つかれば死罪という覚悟はなかったというのか。
 あるいは、見つかることなど絶対にあり得ないと高をくくっていたのか。
 どちらにせよ、この男は己を過信しすぎた。
 だいそれた謀を成し遂げようとする度胸はあったとしても、運がなかった。

「それはまずい……とてもまずいのだ。何故なら、父に叱られてしまう!」

 二十歳を越えたいい大人の男が、父親に叱られるとはあまりにも滑稽なことを口にする。

「それを返してくれ! 頼む、返してくれ……」

 あきらめ悪く、手を伸ばしてくるファルクを冷然と見下ろし、ハルは口許に愉悦的な笑みを広げた。

「お願いします。返してください、だろう?」

 ファルクは一瞬、顔を歪めたが、瓶を返してもらうためならここは致し方がない、従うしかないと両手を床につき、素直に頭を下げる。
 床についていたファルクの手が、両肩が小刻みに震えていた。
 こんな屈辱はあるだろうか。だが、もはや頭を下げるしかなかった。

「お願いします……返してください……」

「その前に、これをどこで手に入れたか答えろ」

 途端、ファルクの目が不自然に泳ぎ始めた。
 正直に答えるつもりはない。
 あきらかに、嘘をつくために何やら頭の中で言い逃れるための考えを巡らしているという様子であった。
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