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令嬢は元暗殺者に恋をする
第68章 出会った場所で
 本人の姿を目にするのは初めてだったが、この国の──この国に限らずだが、おおまかな内情、主要な人物の情報は仕事がら頭に入っていた。

 目の前に立った少女は息を切らせ、青ざめた顔で心配そうにこちらを見下ろす。

 うっとうしい、俺にかまうな。
 そんな目で俺を見るな。
 誰ともかかわりたくない。
 かかわるつもりはない。
 おまえなどに情けをかけてもらわずとも、俺ならどうとでもなる。
 今までそうしてきた。
 これからも。

 殺気にも似た気配を放って目の前の少女を睨みつけ遠ざけようとしたが、それに気づかないのか、気づいていても、それでも自分を心配しているのか、

 少女は逃げようともしない。それどころか、あなたを助けたい、私は味方、などとおかしなことを言い出した。

 俺を助けたい?
 笑わせるな。貴族のお嬢様が、偽善者面をして何だという。
 世間知らずのお嬢様だ。
 だったら、少々怖い思いでもさせてやれば、すぐに泣きだして逃げだすだろう。

 そう思って、少女の細い首に手をかけ絞め殺すのは容易いと脅してやった。なのに、少女は泣き出すどころか、服が汚れるのもかわまず抱きついてきた。

 思わず虚を突かれてしまった。
 すぐに、我に返り少女の身体を引きはがそうとしたが、さらに少女はぎゅっとしがみついてきて……飲んだ薬の香りにあてられ自分の腕の中で気を失ってしまった。
 何故、怪我人の俺が気絶したこいつを抱き抱えなければならない……。
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