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令嬢は元暗殺者に恋をする
第68章 出会った場所で
 ファルクの屋敷を去る間際、より深い絶望を味わうとあの男に言った言葉がまさに自分自身にあてはまり、笑うしかなかった。

 ハル、好き。
 ハルがいてくれたら、私は何もいらない。
 ずっとハルの側にいるから。
 私がハルの側にいてあげるから。

 サラの無邪気な笑顔が脳裏を過ぎっていく。

 大切にしたい、優しくしてあげたい。
 愛したい。
 手放したくない。

 けれど……。

 ふと、思い出したようにハルは懐からリボンを取り出した。
 それはサラに贈った藍色のリボン。サラの部屋に落ちていたものであった。

 ハルは明るくなり始めた空に視線をさまよわせた。
 覆い被さる木々の合間からのぞく淡い光の筋。

 ゆるりとリボンを握っていた手を持ち上げ、木々の合間からこぼれる細い光の束に手を伸ばして透か見る。
 さわりと吹く風に、指からこぼれたリボンのはしがなびく。

 届かない。
 手を伸ばしても、あの光には届かない。
 届くはずもない。
 どんなに光に焦がれたところで、それを手にすることは叶わない。

 伸ばした手をおろし口許へと持っていくと、握りしめたリボンにそっと口づけをする。
 視線を落とし、静かにまぶたを閉じた。
 閉ざされる寸前まで、まぶたの奥に揺らぐその瞳にはせつない色がにじんでいた。
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