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令嬢は元暗殺者に恋をする
第70章 戦い前夜
「ほんとに、おまえは何者なんだ」

 何者だと問いかけたものの、別に答えを求めているわけではない。
 当然、ハルも答えない。

 好きな女のためとはいえ、暗殺者二十人を相手に、それもたったひとりで立ち向かうなど正気の沙汰か。
 けれど、そこまで断言するにはただの無謀や衝動的な感情ではなく、勝算があってと確信しての発言なのだろう。

「本気でひとりでやるつもりか?」

 納得がいかない、けれど納得せざるを得ない。
 シンの表情に複雑なものがにじんだものの、ハルの瞳に揺らぎのない変わらぬ決意を感じ取り、やれやれとため息をこぼす。

「俺は俺のできることをやれってことだな。わかったよ。おまえがそこまで言うなら。だが……」

 これだけは確かめさせてもらうぞとばかりに、シンのまなじりが細められた。

「信じていいんだな?」

「ああ、サラは必ず」

「いや、そんなことはもう心配してねえよ。おまえならサラをあいつから救ってくれると思っている。そうではなくて、俺が言いたいのはおまえは大丈夫なんだなってこと」

 ファルクの手からサラを救うことができたとしても、ハル自身に何かあってはもともこもない。
 サラを悲しませてしまうことにもなる。
 それをわかっているのかと。
 だが、すかさず返ってきたハルの次の言葉に、シンは戯けた仕草で恐れ入りましたと肩をすくめた。
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