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令嬢は元暗殺者に恋をする
第70章 戦い前夜
「何を心配しているのか……おまえらしくもない。俺はおまえのために動くが、俺の仲間は俺のために動く。俺の一声で喜んで従ってくれる奴らばかりだ。これも、俺の人望ってやつだな。俺に文句を言う奴なんて誰ひとりいねえよ。だから、おまえは何も心配するな」

「そう、か……」

 心のつっかかりが取りのぞかれた途端、ハルの口許に微かな笑みが浮かんだ。

 その笑みは壮絶になるであろう明日の戦いを微塵にも感じさせない、柔らかい笑みであった。

「おまえが笑ったところ、初めて見た。何ていうか……」

 その後の言葉はなく、シンは口をつぐんでしまった。
 ただ居心地が悪そうに苦笑いを浮かべているだけ。
 その顔はどこか照れているようにも見えた。

「面倒なことを頼んでしまって、すまない……」

 それに、ずいぶんとわがままを押しつけてしまった。

「何言ってんだ。だけど、本当は俺になんか頼らずとも、おまえならどうにでも……」

 そこまで言ってシンはいや、と首を振る。

「シン」

 腕に抱いた剣を静かに床に置き、立ち上がったハルはシンの左の肩に自分の左手を置いた。そして、その手にひたいをのせる。
 顔を伏せた瞬間、シンが驚いた表情を浮かべたのが目に入った。

「おい……」

 肩にすがってきたハルを反射的に抱きしめようとシンの両手が持ち上がる。が、その手が虚空で止まった。

 ありがとう──。

 顔を伏せたハルの唇から、素直に感謝の言葉が出た。
 ごく自然に。

 シンの肩に顔をうずめたのは照れくさかったからか。
 たぶん、それもあったのかもしれない。
 と、同時に、ほんの少しだけ、目の前の男の頼もしい言葉に、懐かしい人の面影が重なったような気がして……。

 その人が側にいるだけで安心していられた。
 心強いと思った。
 見守ってくれていたから、どんな苦しい境遇にも耐えることができた。

 顔を見ずともシンが動揺しているのが伝わってくる。
 そして、おかしいくらい声にもその狼狽ぶりがあらわれていた。
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