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令嬢は元暗殺者に恋をする
第71章 月影の森
 それにしても、隣に座るファルクの顔は見るにも耐えない悲惨なものであった。
 頬を青紫色に腫らし、腫れたせいで片目が歪んでいる。

 口を開くたび抜けた歯が嫌でも目について、いつものように、お得意の爽やかな笑顔を作ろうとはするものの、歯の抜けたみっともない顔では女性を虜にしてきた笑顔も台無しであった。
 むしろ、不快にさえ感じさせた。

 屋敷の侍女たちも、そんなファルクの顔を見て、眉根を寄せたり、中にはうつむいて笑いをこらえている者もいた。
 さらに、右手の指を怪我したのか、ぐるぐると包帯が巻かれている。
 当然、回りの者たちは何があったのかとファルクに問いかけるが、ファルクは、ぼんやりと考え事をして階段を踏み外してしまったと笑いながら答えた。

 けれど、それが嘘であることはすぐにわかった。

 間違いなくハルがやったのだ。
 それ以外、考えられなかった。
 けれど、サラは内心ほっとしていた。

 もっとひどい状態となったファルクの姿を目にすることになるのではと恐れていたから。
 それこそ腕を斬り落とされているのではと思っていたくらいだ。けれど、そのハルもとうとう、姿を見せることはなかった。
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