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令嬢は元暗殺者に恋をする
第6章 あなたは最低な人
「ひどい熱だ……」

 母親の腕の中で、高熱と痙攣をともなった咳を繰り返すその幼子の様子を見たテオは、兢々としてその場に立ちつくした。

「それに、感染症を起こしかけているかもしれない」

 元はただの風邪だったのだろうが、ずいぶんとこじらせてしまったらしい。
 抵抗力の少ない幼い子どもには、たかが風邪と侮ることはできない。
 だが、すぐに適切な治療をほどこせば問題はない。が、このまま放っておくと命に支障をきたす恐れもある。

 まだ若い母親はただ、我が子を救ってくれと泣き崩れるばかりであった。
 あきらかに冷静さを失ってしまっている。
 だが、実のところ、それはテオも同じであった。

 先生が留守の時に限ってどうして。
 僕は医者ではない。
 僕にはどうすることもできない。
 どうすればいい、どうすれば……。
 先生の帰宅を待ってもらうしか。

 しかし、テオはいや、と首を振る。
 これは一刻を争う状況だ。
 覚悟を決めたかのように顔を上げ、テオは手を強く握りしめた。

「落ち着いて下さい。すぐに、この状態を和らげる薬を調合しましょう」

 若い母親を安心させるように、落ち着いて、と何度も声をかける。
 その言葉はまるで呪文のように、自分自身にも言い聞かせた。

 テオは薬草が所狭しと並んでいる薬品棚へと歩み寄る。
 震える手で扉を開け、棚からいくつかの薬品の詰まった瓶を取り出す。
 いつの間にかハルが現れたことにも気づいていない様子であった。

 ハルは腕を組んで戸口に寄りかかり、穏やかではないこの様子を、冷ややかな眼差しで見つめていた。
 仕事場には決して足を踏み込まないサラも、ただならぬ気配を察して、扉の隙間から顔をのぞかせている。

 テオは慎重な手つきで、取り出した数々の薬品の瓶を卓の上に並べた。
 熱と咳ををおさえるのに必要な薬草と、処方の仕方はもちろん、知っている。

 幼い頃から師について学んできた。

 早く薬草を調合しなければ。
 慌ててはいけない。
 自分が動揺すれば、つられて子どもの母親も不安になる。
 いつも通りにやればいい。

 そう思いながらも、ひどく手が震えた。

 信頼する師が側にいない、ここには自分ひとりというプレッシャーに押し潰されてしまいそうであった。
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