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令嬢は元暗殺者に恋をする
第6章 あなたは最低な人
 テオは真剣な顔で瓶の蓋を開けた。

 震えのおさまらない手で、選んだ薬を次々と計量の匙ですくい、調合の器に落として、すりつぶし混ぜ合わせる。

 側で目を細めるハルの表情になど当然気づかない。
 薬が完成するにはさほど、時間はかからなかった。
 再びテオは診察台に寝かせた子どもの様態を診る。

「安心して下さい。今、薬を投与ます。そうすればすぐに熱も下がるでしょう」

 母親は何度も礼を述べ頭を下げた。
 テオは母親にうなずき、できあがった薬を取りに調合台へと歩んだ。

 子どもに飲ませるだけの薬にテオが手を伸ばした瞬間、信じられない出来事がテオを打ちのめした。
 いつの間にか調合台の脇に立っていたハルが、薬を床に投げ捨てたのである。

 苦労して調合した薬が、無残にも床に散らばってしまった。

 テオとサラは大きく目を瞠らせた。
 子どもの母親も口許を手で押さえ、悲痛な叫びをもらす。

「お、おまえ!」

 凄まじい形相と、今にも殴りかからんばかりの勢いで、テオはハルの胸ぐらをつかむ。

 ほとんど変わらない背の高さで間近に目と目を見合わせる二人の間に、凍りついたような緊迫した空気が漂った。
 テオの身体から怒気が放たれる。

「こんなことをして、面白いか!」

「熱くなるなよ。かりにも薬師だろう? いかなる状況にも対応できるくらいの余裕と冷静さぐらい持ったらどうだ?」

「おまえが……おまえがそれを言うのか!」

 テオはぎりっと奥歯を噛んで、ハルを睨みつける。
 目の前のこの男を殴り飛ばしたいという衝動に駆られたが、何とかぎりぎりのところでテオは耐えた。

 確かに、今ここで争っている暇はない。

 テオは大きく深呼吸をして怒りを押さえ、そして、気持ちを切り替える。

 すぐに新しい薬を調合しなければ。
 たとえ、先生がいなくとも、僕は必ずやってみせる。
 この子は必ず救ってみせる。
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