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令嬢は元暗殺者に恋をする
第75章 戦い -1-
新たな得物を手に馴染ませるよう数回振って、二本の剣を手にかまえて立つ。
「二刀だと……」
ファルクは呻き声をもらし、ぎりぎりと歯を鳴らした。
先ほどまでの余裕の態度は薄れ、その顔にじわりと焦りがにじむ。
目の前で己の雇った暗殺者たちが次々と倒されていくのだ。
それも、剣を揮うには頼りなさそうな、女のように細腰の、たったひとりの少年に。よもや、相手がこれほどの強者だとは思っていなかったようだ。
ハルが暗殺者二十人を、ひとり残らず始末すると言ったのは、虚勢ではなかった。
ファルクは腕を組んだ状態で右手を口許に持っていき、苦い顔で親指の腹をきつく噛む。
「いや、まだだ」
まだこちらの手勢はじゅうぶん。
そのうち、体力もつき息を乱して果てるだろうとファルクは思い直す。
が、それは甘い考えであったと思い知ることになる。
相手を侮っていた。
それ以上に、相手の心の奥深くに眠っていた危険な本性を呼び覚ましてしまった。
自分の手に負える相手ではなかった……と、気づいて後悔するのはもう少し後のこと。
さらに襲いかかる敵の凶刃を交わす。
耳元で空を斬る剣の音。
両の手に握った剣を巧みに操り、休みなく立て続けに敵を攻め、反撃を許すことも与えず、最後に相手の息の根を止める。
足元に倒れた敵には目もくれず、新たな敵を伐つため身をひるがえす。
と、今度はあからさまな苛立ちと怒りをにじませた攻撃が放たれる。
布で顔をおおい、相手の表情はわからない。けれど、敵意を剥き出しにしたその目は怒りで血走っていた。
力任せに打ち込んでくる攻撃をうっとうしいとばかりに、相手の剣を手首ごと刎ね、返す刃で風を切り敵を裂くと、すぐさま後方へと飛んで退く。
目の前で、吹き上がる血飛沫がぱたぱたと音をたて雨粒のように降り落ちる。
大地に赤い血の溜を作って。
敵の返り血を浴びた姿で、サラの前に立つわけにはいかない。
血で穢れた手で、サラを抱きしめることなどできない。
サラを汚すわけにはいかない。
その時であった。
「二刀だと……」
ファルクは呻き声をもらし、ぎりぎりと歯を鳴らした。
先ほどまでの余裕の態度は薄れ、その顔にじわりと焦りがにじむ。
目の前で己の雇った暗殺者たちが次々と倒されていくのだ。
それも、剣を揮うには頼りなさそうな、女のように細腰の、たったひとりの少年に。よもや、相手がこれほどの強者だとは思っていなかったようだ。
ハルが暗殺者二十人を、ひとり残らず始末すると言ったのは、虚勢ではなかった。
ファルクは腕を組んだ状態で右手を口許に持っていき、苦い顔で親指の腹をきつく噛む。
「いや、まだだ」
まだこちらの手勢はじゅうぶん。
そのうち、体力もつき息を乱して果てるだろうとファルクは思い直す。
が、それは甘い考えであったと思い知ることになる。
相手を侮っていた。
それ以上に、相手の心の奥深くに眠っていた危険な本性を呼び覚ましてしまった。
自分の手に負える相手ではなかった……と、気づいて後悔するのはもう少し後のこと。
さらに襲いかかる敵の凶刃を交わす。
耳元で空を斬る剣の音。
両の手に握った剣を巧みに操り、休みなく立て続けに敵を攻め、反撃を許すことも与えず、最後に相手の息の根を止める。
足元に倒れた敵には目もくれず、新たな敵を伐つため身をひるがえす。
と、今度はあからさまな苛立ちと怒りをにじませた攻撃が放たれる。
布で顔をおおい、相手の表情はわからない。けれど、敵意を剥き出しにしたその目は怒りで血走っていた。
力任せに打ち込んでくる攻撃をうっとうしいとばかりに、相手の剣を手首ごと刎ね、返す刃で風を切り敵を裂くと、すぐさま後方へと飛んで退く。
目の前で、吹き上がる血飛沫がぱたぱたと音をたて雨粒のように降り落ちる。
大地に赤い血の溜を作って。
敵の返り血を浴びた姿で、サラの前に立つわけにはいかない。
血で穢れた手で、サラを抱きしめることなどできない。
サラを汚すわけにはいかない。
その時であった。

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