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令嬢は元暗殺者に恋をする
第77章 戦い -3-
はらりと口許をおおっていた布が落ち、敵の素顔があらわになる。
現れた人物の顔は思っていた以上にまだ幼い。
ハルは目を細める。
おそらく、十を過ぎたばかり。
よもや、こんな小さな子どもがと、眉をひそめたが、思えば自分もこのくらいの年齢よりも前には、すでに暗殺の仕事をしていた。
武器を手放し、剣を喉元に突きつけられ、為すすべもなく少年は目を見開く。
肩を激しく上下させ、唇から荒い息がもれる。
苦しそうに片目をすがめるその顔は青ざめ、すっかりと血の気を失っている。
少しでも動けば容赦はしないというハルの威圧的な態度に萎縮して、それ以上攻撃をしかけてくることはなかった。
少年は唇を震わせた。
「ど……」
こちらを見上げたまま、少年はくしゃりと泣きそうに顔を歪めた。
当然、助けてと懇願してくると思ったが、少年の口から出た言葉は予想外のものであった。
「どうして……どうして、他のやつらと同じように、ひと思いに殺してくれなかったんだよ!」
こらえきれず、こぼれ落ちた涙が少年の頬を濡らす。
突きつけられた剣のせいで、涙を拭うこともできず、ただ悔しげに奥歯を噛みしめていた。
「あんたから逃げられるとは思ってなかったし、たとえ、運良く逃げ出すことができたとしても、俺だけひとり生き残って、のこのこ組織に帰ったところで、どうせ殺されるだけだ。だから、勇気を出して……死ぬ覚悟であんたに斬りかかったんだ。なのに……」
涙を流しながら少年は恨みがましい目で見上げてくる。
「何で俺を殺さない! 何でだよ……何か言えよ。何でずっと黙ってんだよ! 俺の言葉がわからないのか? 言っておくけど、俺だってレザンの言葉なんか知らないからな。知るわけないだろ。ばか!」
威勢よくばか、と吐き捨て少年は肩を震わせ目を伏せる。
「今回の仕事は、貴族が乗っている馬車を襲う振りをするだけだって、それを聞いて、殺しはないんだって、俺、少しほっとしてたんだ。なのに、こんなことになるなんて……最悪だよ」
現れた人物の顔は思っていた以上にまだ幼い。
ハルは目を細める。
おそらく、十を過ぎたばかり。
よもや、こんな小さな子どもがと、眉をひそめたが、思えば自分もこのくらいの年齢よりも前には、すでに暗殺の仕事をしていた。
武器を手放し、剣を喉元に突きつけられ、為すすべもなく少年は目を見開く。
肩を激しく上下させ、唇から荒い息がもれる。
苦しそうに片目をすがめるその顔は青ざめ、すっかりと血の気を失っている。
少しでも動けば容赦はしないというハルの威圧的な態度に萎縮して、それ以上攻撃をしかけてくることはなかった。
少年は唇を震わせた。
「ど……」
こちらを見上げたまま、少年はくしゃりと泣きそうに顔を歪めた。
当然、助けてと懇願してくると思ったが、少年の口から出た言葉は予想外のものであった。
「どうして……どうして、他のやつらと同じように、ひと思いに殺してくれなかったんだよ!」
こらえきれず、こぼれ落ちた涙が少年の頬を濡らす。
突きつけられた剣のせいで、涙を拭うこともできず、ただ悔しげに奥歯を噛みしめていた。
「あんたから逃げられるとは思ってなかったし、たとえ、運良く逃げ出すことができたとしても、俺だけひとり生き残って、のこのこ組織に帰ったところで、どうせ殺されるだけだ。だから、勇気を出して……死ぬ覚悟であんたに斬りかかったんだ。なのに……」
涙を流しながら少年は恨みがましい目で見上げてくる。
「何で俺を殺さない! 何でだよ……何か言えよ。何でずっと黙ってんだよ! 俺の言葉がわからないのか? 言っておくけど、俺だってレザンの言葉なんか知らないからな。知るわけないだろ。ばか!」
威勢よくばか、と吐き捨て少年は肩を震わせ目を伏せる。
「今回の仕事は、貴族が乗っている馬車を襲う振りをするだけだって、それを聞いて、殺しはないんだって、俺、少しほっとしてたんだ。なのに、こんなことになるなんて……最悪だよ」

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