この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
令嬢は元暗殺者に恋をする
第77章 戦い -3-
確かに、少年にとって、いや、少年に限らずアイザカーンの暗殺者にとって、思いもよらぬ最悪のものとなってしまった。
貴族の馬車を襲う振りだけだったはずが、よもや、レザンの暗殺者だった者と剣を交える羽目になろうとは。
不意に少年はあっ、と声をもらした。
落ちた少年の視線の先、ハルの足元に血が垂れ落ちる。
視線を上げた少年の目がハルの左手に向けられた。
「血……?」
ハルの指先から血の滴がぽたりと落ち地面を赤く濡らした。
血が流れる元をたどると、左腕にレザンの暗殺者である証の花の入れ墨が裂かれていた。
少年にやられた傷だ。
「ハル! 血が……」
サラが悲鳴を上げた。
じくりと灼けるような痛み。
流れていく生暖かい血の感触。
傷は浅くたいしたものではない。
「その傷……俺なのか?」
「そうだ」
「俺があんたを?」
「どんな奴か、顔を見てみたくなった」
自分を傷つけた相手に興味を持った。
それ故、ひと思いに殺すことはしなかった。
ハルの流暢なアイザカーン語に、少年は言葉が通じることにほんの少しほっとして息をもらす。
だが、少年にとっての最悪な事態は少しも変わったわけではない。
いまだハルに剣を突きつけられたまま。
その剣がいつ振りおろされるかもわからない恐怖に怯え続けなければならないのだ。
「何だよそれ。顔を見てみたくなったって、それだけの理由で? そんなのないよ……あんまりだよ……あんた性格すごく悪い! よく言われるだろ? 大っ嫌いだ!」
嫌いも何も、敵なのだということをわかっているのか。
「惜しいな」
「惜しい?」
少年は泣きながらかすれた笑いをもらす。
貴族の馬車を襲う振りだけだったはずが、よもや、レザンの暗殺者だった者と剣を交える羽目になろうとは。
不意に少年はあっ、と声をもらした。
落ちた少年の視線の先、ハルの足元に血が垂れ落ちる。
視線を上げた少年の目がハルの左手に向けられた。
「血……?」
ハルの指先から血の滴がぽたりと落ち地面を赤く濡らした。
血が流れる元をたどると、左腕にレザンの暗殺者である証の花の入れ墨が裂かれていた。
少年にやられた傷だ。
「ハル! 血が……」
サラが悲鳴を上げた。
じくりと灼けるような痛み。
流れていく生暖かい血の感触。
傷は浅くたいしたものではない。
「その傷……俺なのか?」
「そうだ」
「俺があんたを?」
「どんな奴か、顔を見てみたくなった」
自分を傷つけた相手に興味を持った。
それ故、ひと思いに殺すことはしなかった。
ハルの流暢なアイザカーン語に、少年は言葉が通じることにほんの少しほっとして息をもらす。
だが、少年にとっての最悪な事態は少しも変わったわけではない。
いまだハルに剣を突きつけられたまま。
その剣がいつ振りおろされるかもわからない恐怖に怯え続けなければならないのだ。
「何だよそれ。顔を見てみたくなったって、それだけの理由で? そんなのないよ……あんまりだよ……あんた性格すごく悪い! よく言われるだろ? 大っ嫌いだ!」
嫌いも何も、敵なのだということをわかっているのか。
「惜しいな」
「惜しい?」
少年は泣きながらかすれた笑いをもらす。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


