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令嬢は元暗殺者に恋をする
第77章 戦い -3-
「あんたに傷を負わせることができたのは、ただの偶然だよ。だから、惜しくも何でもないよ。最初にあんたの姿を見たときから絶対に勝てる相手ではないと思った。隙をついて斬りかかろうと何度も思ったけど、隙なんてまったくなかったし……それ以上に、足がすくんで飛び出すことができなかった。そうこうするうちに仲間たちが次々と殺されて……ほんとに、死ぬ思いであんたに斬りかかったんだ」

「そういう意味で言ったのではない」

「違うの?」

 きょとんとして首を傾げる仕草はあどけない。
 年相応の、どこにでもいる普通の子どもの仕草であった。

「じゃあ、何だよ。どういう意味だよ」

「まだまだおまえは強くなれると思ったからだ」

 だから、ここで殺してしまうのは惜しいと。

「俺が強く?」

 少年は驚いたように目を丸くする。

「今よりも、もっと?」

 ハルはうなずいた。

「それ、本心で言ってるの?」

「嘘をつく理由はない」

「へへ……そんなこと言われたの初めてだよ。それも、あんたに言ってもらえるなんて。だって俺、組織のみんなからおまえは弱い使えない、だめな奴だって言われ続けてきたんだぜ」

 本当だ。
 剣すじも身のこなしも悪くはない。
 何より、この自分に傷を負わせることができたのだ。
 間違いなく、剣を教え込めばこの少年はさらに強く成長する。
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