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令嬢は元暗殺者に恋をする
第78章 戦い -4-
「毒?」

 サラは咄嗟に身をひいた。
 両腕を前に突き出してハルの身体を遠ざける。
 少年は毒と叫んだが、ハルがそんなものを自分に飲ませるはずがない。
 サラは自分が何を飲まされそうになったか、すぐに感づいたようだ。

 どうして……と、咎める目、瞳の奥に揺らぐ悲しげな影。

「眠り薬を飲ませようとするなんて! だから、私にキスをしようと……」

  小さなこぶしを何度もぶつけてくるサラの頭を、右手で抱え胸に引き寄せた。
 腕の中で小刻みに震えるサラのこめかみにハルは口づけを落とす。
 そして、ゆっくりと視線を上げ、サラの頭ごし、半眼で目の前に座り込んでいる少年を見据える。

 少年の邪魔がなければ、確実にサラを眠らせていた。
 即効性のある薬だ。
 十も数え終わらないうちに、深い眠りの底へと堕ちていっただろう。

 余計なことをしてくれたな。

 サラの前では見せることのなかった、ハルの冷ややかな双眸に少年は表情を凍らせる。
 ハルの身体から放たれる凄烈な気に怯え、必死で歯を食いしばって耐える。
 それでも、噛みしめた歯から震える息がもれた。
 やがて、胸を打ちつけていたサラの手が、ぎゅっと服をつかんでしがみついてくる。
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