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令嬢は元暗殺者に恋をする
第81章 離さない、離れない
「それと、俺のことは誰にも口外するな。もし、誰かに何を聞かれたとしても知らないと答えろ」

「ハル……」

「そして、今夜のことはすべて……忘れろ。俺のことも含めて」

 そう言って、ハルはサラに背を向ける。
 一瞬だけ、サラの泣きそうな表情が視界に入り、再び胸に痛みが走った。

 これでいい。
 何もかも、すべて忘れてしまえ。
 俺たちは出会ってなどいない。
 そう、最初から。

 言い聞かせているのは自分自身にか。

 心が震える。
 胸が痛い……。

 ハルはぎりっと赤くなるほどに唇を噛みしめた。

「……どうして?」

 大股でサラはハルの元へと歩み寄る。

「ハル!」

 こっちを向きなさいと、サラの手に肩をつかまれ振り向かされる。
 振り向いた瞬間、サラの右手が大きく振り上げられた。

「どうして? どうしてそうなの? まだそんなことを言うわけ? ハルのわからずや……っ!」

 が、ハルの頬を打つはずだったサラの手が、振り上げられたまま虚空で止まった。
 サラがかすかに息を飲む。

「ハル……?」

 うつむいたハルの足元に、二つのしずくが落ちたからだ。
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