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令嬢は元暗殺者に恋をする
第84章 暗殺組織レザン・パリュー
 炎天がその名を口にしたと同時に、銀髪の少年はテーブルを叩く指を止め、ちらりと隣に座るレイに視線を走らせる。

「確か貴様は三年前、組織から逃亡したハルを追い、始末したと言ったはずだが」

「いいえ、お忘れになりましたか? 斬り合っているうちにハルが崖から足を滑らせたと言ったはずですが」

 ようやくレイが口を開く。
 落ち着いた声であった。
 炎天はふんと小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

「だが奴は生きていた。もっとも、俺は貴様の言葉を信じたわけではなかったがな。何が崖から足を滑らせて落ちただ!」

「もはや助からないと思っていましたが、奇跡的に命を繋ぎとめたようですね」

「は! 白々しい! 奴が組織から逃げ出したあの日、奴は早朝一番のアルゼシア大陸経由のアイザカーン行きの船に乗った。ところが、その船は最終目的地であるアイザカーンへ辿りつく直前で爆破され海に沈んだ。さらに、奴の行方を追うために手に入れた乗船名簿に書かれていた名は、すべてでたらめ。それは、奴の足どりを消すため、あらかじめ貴様がすり替えていたからだ。船が沈んだのも事故ではない。貴様が沈めた。ハルとかかわったであろう乗組員さえも貴様は消してしまった。とんでもない男だな、おまえは。ハル一人のために無関係な人間まで巻き込んで心が痛まないか?」

「心? おかしなことを仰る」

「何?」

「わたしたちレザンの暗殺者に、心などあるのでしょうか?」
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