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令嬢は元暗殺者に恋をする
第7章 ハルの真意
「本当に、テオは堅すぎますね。男と女の恋愛に理屈などないのですよ。ましてや、身分の違いなどね。私だって、これでも、若い頃は数々の浮き名を流したものですよ」

 師の意外な告白に、テオは驚きのあまり言葉を失ってしまう。

 かたや、ベゼレートは若き日のことを思い出しているのか、嬉しそうに目元を緩ませて笑っていた。が、不意に、ベゼレートは真顔に戻り、真剣な面持ちでテオを見つめ返した。

「ひとつ、テオにだけ今まで誰にも言えなかったことを告白しましょう。けれど、私の告白はあなたをがっかりさせてしまうかもしれませんが」

 師の告白とやらにテオは表情を引き締め、居住まいを正す。

 そして、ベゼレートは語り始めた。

「ずいぶんと昔のことですよ。そうですね、まだ私があなたぐらいの年頃、アルガリタの学問所に通いながら、医師としての仕事を始めた頃のことです」

 あの頃の私は野心と出世欲に取り憑かれ、自分がのし上がるためなら、他人をも蹴落としかねない、そんな勢いでした。

 それに、あの頃の私は、自分は人の上に立つ資格も価値もあると自負していました。
 そんな時です、私と私の友人に王家の専属医師という大任が転がり込んできたのは……。

 もちろん、選抜されるのはどちらか一名。

 筆記試験と口述試験で成績の良かった方がその大任を仰せつかることができるということになりました。

 私たちはそれこそ手を取り合い、大喜びをしたものです。
 ですが、笑いながらも、私は心の中で友人の存在をひどく疎ましく思うようになっていたのです。

 彼がいなければ、間違いなくその役目は私だけのものになっていたはずと。

 私たちには共通の女性の友人がいました。
 友人とはいっても、彼も私もその女性に恋心を抱いていました。

 さらに、王家専属の医師という地位を得た方が、彼女に求婚をするという暗黙の約束事ができていたのです。
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