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令嬢は元暗殺者に恋をする
第85章 それから
「最悪の時の話をしよう」

「最悪……?」

 突然切り出してきた最悪の時というハルの言葉に、サラは不安を覚えた。

「もし、俺たちがレザンから追ってきた組織の人間に捕らわれた時の話だ」

 捕らわれた時、とハルの言葉を繰り返してうつむくサラの頬にハルの指が添えられた。

「そんな怯えた顔をしないで。サラは俺が命に代えても守る。ただ、もしもの時の話だよ。あまりいい話ではないけれど、聞いてくれるね」

 サラはこくりとうなずいた。
 いい子だね、とハルはサラの頬を優しくなで、ひたいに口づけを落とす。

「万が一、俺たちが捕らえられたとしても、サラは暗殺の対象というわけではないから殺される可能性は少ない。そしておそらく、俺も」

「ほんとう?」

 一瞬、喜びの声をあげたサラだが、ハルの次の言葉に再び表情を翳らせる。

「組織の暗殺者として育てた俺を、奴らがそう簡単に殺すとは思えない。俺はまだ使えるから」

 レザンの、ハルがいた暗殺組織のことはいまだサラにはよくわからない。
 けれど、ハルはそこで有能な暗殺者として組織のために働いていたことは聞かされた。

「だが、俺を無理矢理従わせ、二度と組織を裏切らせないために、サラが痛めつけられる可能性もある。俺の目の前で」

 サラの瞳が震えた。
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