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令嬢は元暗殺者に恋をする
第85章 それから
「あのさ」

 突然、神妙な顔をするキルクにサラはどうしたの? と、首を傾げる。

「俺、ハルとサラにはすごく感謝してんだ。特にサラはあの時俺のことを救ってくれた」

 キリクの言う、あの時とはカーナの森でのことだ。

「サラがハルをとめてくれなかったら、俺は絶対に殺されていた」

「そんなの。ハルはそんなこと……」

 しないと言い切れなかった。

 それはキリクもわかっていたのだろう、キリクはううん、と首を振る。

「間違いないよ。あの時ハルは本気で俺のことを……だけど俺のことを生かしたのはきっとサラを守らせるためだよ。ハルだって一日中サラの側にいるわけにもいかないし、だからこうして俺がサラの側にいれば少しは安心だろうと思って」

 もっとも、俺はハルほど頼りにはならないけど……とキリクは口の中で呟く。

「俺、まだ子どもだけど、そこらの奴らには負けない自信はある。俺、サラのこと絶対に守るから」

「ありがとう。キリクが側にいてくれて心強わ。でもね、私のことはいいから、キリクはキリクのしたいことをすればいいと思うの」

 せっかく自由になれたのだから、キリクにはこの先自分の好きな道を進んで欲しいとサラは思っていた。

「だけど俺、自分が何やりたいかなんてまだわからないし。サラは……俺がいたら邪魔? 俺のこときらい?」

「キリクのことは家族だって、さっき言ったでしょう」

 キリクはにこりと笑った。

「俺、もっともっと強くなるから! あのさ! ハルに剣を教えてもらえるなんてすごいことなんだぜ。わかる?」

 キリクが言うハルに剣を教わるということ、それは、この世で最強といわれているレザンの暗殺者から剣を教わるという意味だ。

「絶対に考えられないことなんだ」

 というよりも、レザンの暗殺者と一緒に暮らしているということ事態考えられないことだが。
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