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令嬢は元暗殺者に恋をする
第87章 あなたの瞳におちて
 何でもないことのようにハルは答えるが、やはり普通のやり方ではなかった。

「以前にも話したけど、命じられたことはすべて期待通りにこなしていかなければ、使えない人間として殺されることもあったから必死だったよ。だから、たいていの国の言葉は話せるかな」

「そ、そうだったのね……」

 こつを教えて欲しいと思ったが、まるで参考にならなかった。

「それにね、ハルは何でもそつなくこなしてしまうし、頭もいいから」

「そう? 俺、普通だと思っていたけど」

「……」

 ハルの普通がわからない、とサラは緩く首を振る。

「……仕事とはいえ、難関といわれているアルガリタの学問所にも入ったのでしょう? それって、普通とはいわないのよ。入学試験難しかったでしょう?」

 しかし、サラの問いかけにハルはそうだったかな? というように首を傾げるだけであった。

「……だから、ハルならすぐにお仕事見つかるわ」

 自分で言葉を覚えるこつを教えてと聞いておきながら、そのことはすでにどっかにいってしまった。
 結論として、どうやら、地道に覚えていくしかない、ということはわかった。

「実はもう決まっているんだ」

「え? ええ! いつの間に……それで、ええと、どんなお仕事なの?」

「イゼル通りの〝月見亭〟という食堂で給士として雇ってもらえることになった」
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