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令嬢は元暗殺者に恋をする
第8章 突然の別れ
 ベゼレートは大きく息を吸って吐き出した。

「その後、国王の座についたのは弟のダルバス。そして、ダルバスの妃として迎えられたのはイルミネの姉イザーラです。これでおわかりでしょう?」

 淡々と語りながらも、何やら意味ありげな物言いをするベゼレートに、ハルは含み笑う。

 つまり、ダルバスは玉座を手に入れるため兄を殺害し、姉イザーラは王妃の座を欲したがため、実の妹を陥れた。

 よくある話だ。

「それで、無実の罪をきせられた哀れな侍女の弟には、真実を話したのか?」

 ベゼレートは辛そうに眉をひそめ、ゆっくりと首を横に振った。

「真実を知ってしまえば、復讐という闇に捕らわれるかもしれない、と恐れてか?」

「私はあの子にそんな混沌とした世界とは無縁のところで育って欲しいと願っています。それが正しいのかそうでないのか、私にはわかりませんが……」

「まあ、それはあんたたち二人の問題であって、俺には関係ないけどね」

 そして、ベゼレートはハルをかえりみる。

「ところで、ルカシス殿下暗殺に使用された、飲み物のカップの底に検出された毒の甘い匂いと、あなたの身体から香る匂いが同じなのは気のせいでしょうか。その毒はいったい何の毒なのでしょう? そういえば、以前、北の大陸でしか咲かない花があるということを、耳にしたことがあります」

 目を細めて問いかけるベゼレートの表情には、いつもの柔和な笑みはない。

 険しくひそめられた眉と瞳の奥にちらりと光る厳しい色。

 その顔は、真理を追究する学者のそれであった。

 沈黙が二人の間に落ちる。
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