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令嬢は元暗殺者に恋をする
第9章 サラの決意
「お祖母様……」

 祖母が数人の侍女を背後に従え、厳しい面持ちで立っていた。

 もうかなりの年ではあるが、老齢さをまったく感じさせない凛とした雰囲気が彼女から漂っている。

 粛とした威厳を身にまとい、他者を威圧する迫力さえも放つ毅然とした姿。

 身だしなみにも一寸の乱れはなく、着こなしている衣装や結い上げられた髪型さえ、彼女の潔癖な性格を如実にあらわしているようであった。

 しわの刻まれたその顔には、サラの不行儀を咎めるものが明白に浮かんでいる。

 やがて、祖母は嘆息し、こめかみの辺りを指先で押さえ、呆れたように首を緩く横に振った。

「屋敷へ戻ってきたと思えば、このありさま……これが、アルガリタでもっとも由緒あるトランティア家の跡継ぎとなる娘とは……」

 信じがたい、とぽつりと嫌みをこぼし、冷たい石灰色の瞳を持つ祖母の眼差しが、容赦なくサラを射抜く。

 彼女はトランティア家のただひとりの跡継ぎであるサラの、家風に合わない奔放さがどうやらお気に召さないらしい。

 祖母の背後に従っている侍女たちでさえ、遠慮のない侮蔑を込めた眼差しをサラに送っていた。

 それどころか口許に手をあて、今にも笑い出しかねない様子であった。

 さぞ、後で自分に対する陰口が仲間内ではずみ、おおいに花が咲くであろう。

 厳しい視線をサラに据えたまま、祖母は背後の侍女に命じた。

「あの下賤な女……フェリアを今すぐここに、わたくしの元に呼んできなさい。いったい、自分の娘にどういう躾をしているのか」

「お祖母様、待って! お母様を悪く言わないで! お願いです」

 サラは慌てて祖母を引き止める。

 また自分のせいで大好きな母が、祖母の痛烈な嫌味に項垂れさせなければならないのかと思うと、さすがに心が痛んだ。
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