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令嬢は元暗殺者に恋をする
第9章 サラの決意
 トランティアの婿嫁であるフェリアを下賤な女と、それも子であるサラの前で呼ぶくらいなのだから、その間柄がどんなものかなど嫌でも想像ができる。

 祖母はこめかみのあたりをかすかに震わせた。

 母をかばうサラの懇願が、よけい癇に障ったようである。

 祖母にとってフェリアの存在は、家名を貶め血筋を穢した女なのであるから。

 そもそも、サラの母フェリアは貴族の中では身分の低い家柄の娘であった。

 だが、王家とも繋がる大貴族トランティア家の嫡子ミストスに見初められ、周囲の反対を強引に押し切ってまでも、結婚に踏み切ったのであった。

 当初、回りの者はミストスにこう言い含めたものであった。

 それほどまでに彼女のことが好きならば、愛人として迎えればいいと。

 しかし、ミストスも頑固に、フェリアを正式な妻として迎えない限り、自分は一生結婚しないと言い切ったのである。

 そんな大恋愛のすえ結ばれたフェリアとミストスは、今でも恋人同士のように仲むつまじく寄り添っている。そして、二人はたった一人の愛娘に愛情をたっぷりとそそいだ。

 だから、サラも両親のことはとても愛していたし、いつか自分もそんな大恋愛をするのだと憧れを胸に抱いた。

 好きな人と結ばれ、幸せな家庭をつくっていくのだと。

 だが、そんな両親の娘に対する深い愛情が、祖母にとってはただの甘やかしとしかとらえることができず、ただひとりの跡継ぎであるサラをこんな世間体の悪い、為体な子供にしてしまったのだと思っているらしい。

 だから、祖母はいまだにフェリアの存在を認めず、ことあるごとに辛くあたったのであった。
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