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いとかなし
第6章 君ならで誰にか見せむ
「…っ、そんな顔すると襲うよ?」

まだ発熱してぼーっとする頭ではそんな冗談に応えることも出来ない。

「今夜は側にいることを許してくれる?」

大きな手が額を撫でる。

啓司の匂いに安心して、また瞼が重くなる。


✳︎✳︎✳︎


糸が気になって、終電になんとか滑り込んだ。

家に着いた時には既に灯りは消えていた。

二階に上がると糸の部屋の前ではれが鳴いていた。

ドアを開けるとはれは布団に飛び乗った。

嗜める声すらあげたくない。

糸は時々眉間に皺を刻んで苦悶の表情を浮かべていた。

小さな氷の欠片を口元に滑り込ませる。

額の汗をぬぐってやる。

起きた時にお腹が減っている筈だと、静かにキッチンに立った。

こうやって甘やかして、漬け込む自分を嘲笑ってしまう。
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