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いとかなし
第6章 君ならで誰にか見せむ
フラれたばかりの糸の淋しさに漬け込むように部屋を貸し、逃げられないようにお金を肩代わりした。

「好きだからだ、全部」

夜が明けようとしている。

明るくなり始めた空に、窓から差し込み薄い朝日に照らされて光る、汗ばんだ頬を指先で撫でる。

薄っすらと開く瞳は、さながら眠り姫のようだ。

だったら。

啓司はゆっくりと唇を重ねた。

触れるだけの、一瞬のキス。

目を開けると…糸は泣いていた。

目の端から溢れた涙が一筋伝い落ちていく。

「…糸…?」

糸は何も言わず目を閉じ、背を向けてしまう。

何がいけなかったのか、何に泣いたのか。

翌朝、出勤の時間を過ぎても起きてこなかった。

「糸ちゃん、俺もう出るから、…ご飯作ってあるから、食べれそうなら食べてね、なんかあったら連絡していいから…じゃあ…行ってきます」

糸の行ってらっしゃいはなく、代わりにはれが返事をした。
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