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向日葵
第10章 人妻の彼女
 ギュッと手を繋ぎ、ただ前を向いて歩いた。
瞳に映る、クリスマスの飾りをつけた街並みも、哀しみの色に覆われ、賑やかに聴こえてくるクリスマスソングにも苛立ちを感じた。

 「すみれ、お腹は空かない?」

 私は返事の代わりに首を振る。

 「喉は乾かない?
あっ、乾いていても家まで我慢出来る?」

 声は出さずに頷く。

 「私がお茶淹れてあげるね。
それまで我慢ね」

 貴女は子供に言い聞かす様に優しく諭す。
私は貴女の口から出てくる言葉を恐れてしまう。
決定的な言葉を言われてしまうのが怖い。

 『別れ』の二文字が頭を支配し、言われない様にするにはどうしたら良いのか?
阻止出来る言葉を探していた。
所詮、無駄な抵抗なのに必死で考えていた。


 私は格好つけられない女だ。
足掻いて阻止出来るのなら、どんなみっともない姿でも見せる。

 愛する人の幸せを願う。願いたい、願ってる!
でも、失いたくない!

 人を愛するって痛い。
永遠に手に入らないものを純粋な気持ちで愛してゆくって……

 思っていたより重いよ!

 貴女を失うなんて嫌!

 誰よりも愛しているのに何故?

 どうして!!

 急に目の前がぼやけて見えてきた。
 
 堪えなきゃいけないのに、後から後から涙が止めどなく流れ始める。


 「すみれ……
もう少しだからね…
もう少しの辛抱よ!」

 そう言った貴女も声が震えていた。
貴女をそっと見上げたら、真っ赤な目をして唇を噛み締めていた。
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