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変質者の手毬唄・珍田一耕助シリーズ
第10章 「第2の犠牲者」
女将が珍田一の部屋を立ち去ってしばらくするとると、隣の磯毛の部屋から卑猥な喘ぎ声が聞こえてきた
磯毛が久米の家の女中を連れ込んでいるのである
性行為の際の喘ぎ声にも個人差があるのだろうが、隣の部屋から漏れてくる喘ぎ声は特徴的だった
まるで甲高い声の居ぬが遠吠えしているような…
そんな声だった
不思議な事に女の喘ぎ声を耳にしても興奮しなかった…むしろ耳障りにさえ感じていた
珍田一はその喘ぎ声を振り払うように、懐から手帳を取り出し女将から聞き出した敏夫の話を整理し始めていた
敏夫が復員してきたのは凛さんが3歳の時…終戦の翌年だったそうだ…
証言が本当なら、亡くなったのが7年後…7年間で何かトラブルが起きたのだろうか
子煩悩だった敏夫さんが殺されたのだとしたら、何が原因だったのだろう…
凛さんの証言通り、犯人が本当の凛さんの父親だったとしたら相手は誰なのだろう…
敏夫さんが戦地から一時的に帰郷した時期に凛さんを身籠ったと考えるのが普通なのだが…
そうでないとすれば、敏夫さんが出征していた留守中に不貞行為をしていたという事になる
村の男だろうか…
それとも他所からあわび山荘を訪れた旅の者か…
10年後に敏夫さんを殺害したとすれば、1度だけの不貞相手とは考えにくい…
村内の者か、隣村の可能性が高い
どちらにせよ凛さんの生まれた昭和18年は、徴兵の年齢が19歳から45歳までに拡大された年…
女将が凛さんを身籠ったのは17年という事になる…
すると志願兵でなければ、徴兵されていたのは20歳から40歳までだったはず
つまり、凛さんの本当の父親は、当時19歳以下か41歳以上という事になる…
いや…当時、大学・専門学生なら徴兵検査猶予されていた
さらに検査を合格できなかった、健康体ではなかった男も視野に入れなければならない
当時、兵役を逃れた村の男はどれくらいいたのだろう…?
そんなに多くは無いはずだ。
蘭ちゃんの事件の聞き込みをしながら、そのへんについても調べるとしよう…