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不知夜月(いざよいづき)の夜に――
第1章 新月
『有難うございました』


飲み干したカップをふたつ
トレーに乗せた後
珈琲の代金を僕に手渡す


『少しは落ち着いた?』


『はい 少しだけ落ち着きました』


『お互い…
もっと素敵な出会いがあるさ』


彼女を慰めたつもりが
自分の胸も痛んだ


『新月――
今日新月なんです
願い事をすると叶います』


『え?
ああ…そうだったね』


突然言った彼女の言葉が
君の言葉と重なり 僕はドキッとした


『そういうのが好きなの?
月の満ち欠けとか』


『ええ…少しだけ
でも…今日は…
何かを願えそうにないです…』


『うん…
でも いつか…ね!』


店を出た僕たちは
お互いの傷心を気遣いながら
暮れ行く雨上がりの街で別れた―――




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