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Vesica Pisces
第10章 太陽は静寂を包む
お気に入りになったあのおでん屋さんで、今夜はタラの芽の天ぷらに舌鼓をうつ。

『本当?しばらく日本なの?』

「まーね、とりあえず向こう一ヶ月くらいは」

伽耶は心底嬉しそうにグラスのビールを口にした。

「そうだった、パーティー行かね?」

『何の?』

「美味いもんがめちゃめちゃ食えるパーティー」

曖昧に話すけれど嘘でもない。

『私が行ってもいいの?』

「良いって言われたから誘ってんの、来週の土曜日だからな」

暖かさを含んだ風に吹かれながら、伽耶の家までの道を並んで歩く。

『送ってくれてありがとう』

「じゃーな」

頭をくしゃくしゃっと撫でて踵を返す。

数メートル歩いたところで振り向くと伽耶はまだ玄関前に立って手を振っていた。

ひらひらと手を振って応えてまた歩き出す。

最初の角を曲がるところでまた振り返る。

やっぱりそこに伽耶は立っていた。

「家に入らねーと風邪ひくぞ」

『もう、入るよ!おやすみ!』

見える限り会話ができるっていいななんて柄にもなく浸りながら、柔らかな風を受けて帰路についた。

土曜日なんてあっという間で、知り合いの店で髪を切り、持っていたスーツに袖を通した。
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