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恋はいつでも平行線【完結】
第20章 *二十*
 雪さんの声に、ぼんやりと腕の持ち主を見ると、見知らぬ、とても整った顔をした、黒髪の男性がいた。
 彼はわたしを見ると、きれいな露草色の瞳を細めて、とろけるような笑みを向けてきた。
 正直、きれいな顔でそんな笑みを向けられたら、恥ずかしくて仕方がない。
 わたしは恥ずかしくて、視線を思わずさまよわせた。

「あ……なた、は?」

 そう問えば、彼は顔を近づけ来て、頬にキスをした。
 なっ、なに、このキザな態度!

「俺は、あなたを守るために産まれた」

 されたことはキザで恥ずかしいのに、耳元で囁かれた低い声が、ぞくりと背中を震わせた。
 もう、なにこれっ!

「柚希さま、彼にはまだ、名前がないの。つけてあげて?」

 雪さんにそう言われたけれど、かなり混乱していて、つけてと言われても、すぐには考えられない。
 それに、彼はわたしにぺたりとひっついて、離れてくれない。

「あの、考えられないから、離れてもらえますか」

 遠慮がちに告げれば、不満そうな空気はあったけれど、素直に離れてくれた。けれど、視線はじっとわたしに向いていて、かなり緊張してしまう。

 とそこで、水に包まれたとき、服も一瞬にして濡れた感触があったのに、彼が離れた途端、服の濡れた感触がなくなったことに気がついた。

「あれ……濡れて、ない?」
「あぁ、あの水は俺だから」

 目の前の彼は、人ではなく、水が人の形を取っている、と?

「ちなみに、私は初雪が降った日に前の奥さまに初めてお会いしたので、雪と名付けられました」

 と、ヒントになるのかならないのか分からないことを、雪さんが教えてくれた。

 彼はじっと、期待を込めた視線を向けてきていて、強いプレッシャーを感じて、思わず頭をかきむしりながら座り込んだ。
 すると、彼は焦ったのか、わたしのそばまで来て、顔を覗き込んできたから、心臓がばくばくいいはじめた。

「柚希、大丈夫か?」
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