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篠突く - 禁断の果実 -
第10章 過去編四話 苦悩 (前編)
ふっと頬を緩めた孝哉は、しかし、すぐにその表情を真剣なものへ変えた。
「……姉さん、ごめん。…………ありがとう」
孝哉が照れくささの混じった声で早口に言う頃には、悠はすっかり姉の顔に戻っていた。
「なんで謝るのよ。私にとってはあんたが一番可愛いんだから」
でも、もっと早く助けられたら良かったのにね。自嘲の色を浮かべてそう続けた悠に、孝哉は眉根を下げ、頭を振った。悠が自分を助けてくれたことが嬉しかったのだから、今となっては、虐待されていた十年の月日など短く思える。
「でも……ダメだよ、姉さん。女の子でしょ」
姉は頭の回る人だ。体を張らずとも、他に方法はあっただろうに。
ガーゼの下にある悠の痛々しい傷を思い出すと、孝哉はまともに彼女の目を見られなかった。
「女である前に、私はあんたのお姉ちゃんなのよ」
けれど、そんなことは気にしていないというふうに悠は笑った。正義感の強い姉のことだ。孝哉が自分の弟でなくとも、きっと彼女は彼を庇っただろう。
虐待されようが、罵られようが、両親の愛情を感じる瞬間は確かにあった。いつのことだったか、繋いでくれた手の温かさとか、抱きしめてくれた大きな体とか。だが、それとはまた違う類の愛情を孝哉は感じていた。悠からの、恐らくは姉としての愛情なのだろうが。
「……姉さん、ごめん。…………ありがとう」
孝哉が照れくささの混じった声で早口に言う頃には、悠はすっかり姉の顔に戻っていた。
「なんで謝るのよ。私にとってはあんたが一番可愛いんだから」
でも、もっと早く助けられたら良かったのにね。自嘲の色を浮かべてそう続けた悠に、孝哉は眉根を下げ、頭を振った。悠が自分を助けてくれたことが嬉しかったのだから、今となっては、虐待されていた十年の月日など短く思える。
「でも……ダメだよ、姉さん。女の子でしょ」
姉は頭の回る人だ。体を張らずとも、他に方法はあっただろうに。
ガーゼの下にある悠の痛々しい傷を思い出すと、孝哉はまともに彼女の目を見られなかった。
「女である前に、私はあんたのお姉ちゃんなのよ」
けれど、そんなことは気にしていないというふうに悠は笑った。正義感の強い姉のことだ。孝哉が自分の弟でなくとも、きっと彼女は彼を庇っただろう。
虐待されようが、罵られようが、両親の愛情を感じる瞬間は確かにあった。いつのことだったか、繋いでくれた手の温かさとか、抱きしめてくれた大きな体とか。だが、それとはまた違う類の愛情を孝哉は感じていた。悠からの、恐らくは姉としての愛情なのだろうが。