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篠突く - 禁断の果実 -
第10章 過去編四話 苦悩 (前編)
 午後七時。翳った太陽が、今にも消え入りそうな弱々しい光で二人を照らしている。まもなく、日は暮れるだろう。
 微笑をたたえる姉の、白い頬に影が落ちる。薄暗くなった部屋の中で、それはいやに女を感じさせた。夏の室内は夜になってもまだ暑く、キャミソールの胸元を一筋の汗が伝っていく。
 温かな光を灯した悠の瞳が、孝哉を優しく撫でる。それはとても心地良く、孝哉はずっとそうされていたいと思った。
 ――ああ、これだ。父から、母から、こんなふうに愛されたかった。父母との表面上の和解が成立し、これからは叶うことなのかもしれないが、もっと早いうちに欲しかった。
 その時、己の中で何年もの間、ずっと渦を巻いていた感情に、孝哉は漸く気がついた。その思いは、孝哉の心の中へストンと綺麗に落ちて、広がっていく。

(そうか……俺は、姉さんが――)

 ふと気がつけば、孝哉は姉の、咲き乱れる八千代椿に思いを落としていた。沈むほど柔らかな彼女のそれは、抵抗せずに弟を受け入れる。
 印を押すようなその行為は、ほんの瞬きほどの間で終わった。

「たか……や……?」

 悠の瞳が、戸惑いに揺れる。無理もない。たった今、実の弟である孝哉にキスをされたのだから。
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