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篠突く - 禁断の果実 -
第10章 過去編四話 苦悩 (前編)
 動揺を見せる姉の姿に、孝哉は漸く我に返った。

「ごめん」

 己の行為を自覚するように指先で唇に触れると、つい先ほど味わった、姉の柔らかな感触と甘い香りが鮮やかに蘇る。
 ――何をやってるんだ、俺は。

「……ごめん、姉さん」

 孝哉は頭を抱えて俯いた。血の繋がった、実の姉にキスをした。その行為が何を示すのか、痛いほどわかっていた。――怒られる。そう思った。
 だが、ちらりとその様子を窺えば、彼女はにこりと微笑んでいた。

「……お疲れ」

 悠は、気にしていないのだろうか。怒りはしないのだろうか。
 弾力のある太股の上に寝かされると、頭上から子守り歌が降ってくる。鼓動の音に合わせてトン、トンと繰り返される優しい手の感触は、彼を微睡みへと誘う。
 姉は、誤解したのだろうか。弟の行為が、長年の呪縛から解き放たれた安心によるものなのだと。
 ――違う、違うんだ、姉さん。
 思いを告げようとした孝哉の言葉は、声にはならず消えていく。心地良い感覚に、彼の目蓋は静かに下りていった。

 孝哉が悠の部屋を訪ねてきたのは、それから五ヶ月が過ぎた、激しい雷雨の日だった。
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