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淫欲の果てに。人妻・怜香32歳の記録
第2章 漆黒の扉に導かれて
運ばれてきたクラブハウスサンドとこってりと甘そうなドリンクに手をつける気になれず、ストローを弄びながら梨美の話に耳を傾ける。

「怜香は、仕事とか色々順調?」
「うん、仕事も家も順調…だけどね。だけど…。何か、ものすごく足りないものがあるような感じがするんだよね。私は夫のことが好き。結婚してから6年間一緒に暮らしてきて、家族としてすごい信頼してる。こんなに恵まれた生活はない、って思うよ。
だけど最近、どんどん自分がなくなっていくような感覚になることがあって…。仕事が終わって家に向かうときの帰り道とか、朝起きたときとか、あれ?私は誰で、何でここにいるんだったっけ…?って思う瞬間が、けっこうあるんだよね。
このまま、私は刻一刻と進む世界の一員としてどんどん埋もれていって、私という存在は、静かに消えていってしまうんじゃないかな…って。
…なんか、何言ってるんだろうね?私…。ごめんね、なんか変な愚痴みたいになって。」

いきなり何を口走っているのだろう、と思い、私は笑いながら話題を変えようとする。だけど梨美は真剣な顔をして、考え込むような表情を見せる。

「どこかで1回、いちど世間体とか何もかも抜きにして、自分1.人になったつもりで、考えてみたほうがいいかもね。でないと、怜香はこの先ずっと今の停滞から抜け出せないと思う。」
「自分1人になったつもりで、かぁ…。」
「そう、でもさ、自分の心といくら向き合っても答えなんか出ないと思うからさ。
とにかく自分で動いて、誰かと出会ったり見つけたりしながら、新しい何かを見出していくしかないような気がするんだよね。なんか、自己啓発本に書いてあるような当たり前のこと言ってるような気がするけど、やっぱり自分が動かないままだと何も進んでいかないと思うんだよね。」

私は、一体何を欲しているのだろう。何をしたら、私のこの不全感は埋まるのだろう。

梨美の言葉に私は深くうなずく。まだ手をつけていなかったクラブハウスサンドにやっと手を伸ばし、一口含んでみると一気に食欲が湧き、いつもより早いペースで食べ終えてしまった。だが、なぜかまだ空腹感がある。ハンバーグなどもっと食べごたえのあるものにすればよかったか、などと考えながら、梨美に合わせてウイスキーをオーダーする。
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