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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第6章 【回想】里見くんの願望

担当クラスの生徒が作ったというネームプレートは、「不在」。けれど、小夜先生は、いた。
鍵のかかっていない扉を開けて、電気をつける。それに気づいたのか、奥でギィと椅子が軋んだ。
「小夜先生」
「……里見くん?」
寝ていたわけではないだろう。寝られるはずがない。
彼氏の浮気現場の写真が送り付けられてきて、平常心でいられるほど、彼女は強くないはずだ。
「電気もつけずにどうしたの?」
「あ、いえ……すみません、小論文の添削、まだ終わっていなくて」
学園の篠宮小夜先生宛に送り付けたのは、高村礼二と椿奈保子が腕を組んでホテルに入る写真と、笑いながら出てくる写真。
何枚も、何回も、撮った。さすがに車を使われると尾行できなかったが、二人はほぼ電車で移動してくれたので、楽だった。
我ながら上手に撮影できたと思う。二人の顔はバッチリ撮れている。デジカメの望遠レンズもなかなか侮れない。
「泣いていたの?」
目と頬が真っ赤だ。長い間泣いていたことはすぐわかった。
けれど、強がりな小夜先生は、生徒の俺に自分の弱さを見せることはない。
悔しいけど、俺はまだ頼りにならないらしい。
そんな男やめて、俺にしてよ。
大切にするから。

