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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第8章 【回想】里見くんの失恋

 小夜先生が息をのむのがわかった。
 校門のあたりはまだまだ騒がしい。教室のほうも騒がしい。
 国語準備室は、静かだ。

「……里見くん、ありがとう」

 静かな部屋に、先生の冷静な声が落ちる。
 俺は、その瞬間に、悟った。
 あぁ、駄目だ。

 俺は――フラれる。

「でも、ごめんなさい。私は里見くんとお付き合いはできません」

 やっぱり。
 顔を上げると、悲しげな表情で俺を見つめる小夜先生と目が合う。悲しいのは俺。泣きそうなのも、俺。

 勝算があったわけじゃない。
 でも、生徒じゃなくなったら、卒業したら、俺との未来を少しは考えてくれるかなと思った。甘い考えだった。

 浮気をしている高村礼二にすら、勝てないのか、俺は。
 無力だな。無様だな。本当に、泣きそうだ。

 なのに、まだ、諦めきれない。食い下がる。少しでいいから、可能性が欲しい。

「彼氏がいるからですか?」
「それもありますけど、私は社会人なので、生徒や学生さんとはお付き合いできません」
「社会人になったら、付き合ってくれますか?」

 俺は小夜先生を困らせる。

 困ってよ。それくらい望んだって、罰は当たらないはずだ。

 今だけは、俺のことだけ考えて。俺のことで、頭の中をいっぱいにして。

 いつもの、俺のように。いつも小夜先生のことを考えている俺のように。
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