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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第12章 しのちゃんの受難(七)

 玉置珈琲館は、梓の両親が道楽でやっている喫茶店だ。コーヒーを学園関連施設に卸して得る利益と、元々所持している不動産からの不労所得で、普通に生活できる以上の収入があると梓が言っていた。
 だから、客が入らなくても別に構わない、というのが梓の両親の考え。コーヒーをわかってくれる人にだけコーヒーを提供したいという、願い。
 それだけお金に余裕がないとできないことだ。本当に、金持ちの道楽だ。

 こんな雨の日はほとんど客が入らない。来たとしても近所のお得意さんくらいだ。高校生の頃から通っているのだから、パターンはわかっている。
 けれど、カウンターや窓際で宗介と一緒にいるところを学園関係者や生徒に見られたくはない、という一心で、店の死角にある個室を予約した。日曜日でも、部活動をしている生徒も先生もいるのだ。バレたくはない。

「こんにちはぁ!」
「あら、小夜ちゃん、いらっしゃい。個室、好きなほう使っていいわよ」

 出迎えてくれたおばさんが私と宗介の姿を見て「あらぁ」と微笑む。

「お久しぶりねぇ、里見さん」
「はい、ご無沙汰しています」

 おばさんと宗介がそんな挨拶をするものだから、私のほうがビックリする。「彼氏?」とニヤニヤ笑いながらおばさんに聞かれたときのシミュレーションまでしていたのに、え、どういうこと?

「今、学園に教育実習でお世話になっていて、篠宮先生のクラスで勉強させてもらっているんです。その節はお世話になりました」
「あらぁ、いいのよ、減るもんじゃないし。ブレンド二つでいいかしら?」
「あ、今日はランチ食べに来たので、オススメがあれば」
「焼きハンバーグ定食じゃなくてもいい?」
「はい、問題ありません」
「じゃあ、Aランチ二つとブレンドね」
「よろしくお願いいたします」

 二人のその会話だけで、宗介がここに通いつめていたことがわかる。嘘でしょ。
 宗介は、ポカンとしている私を尻目に、スタスタと個室へ向かっていく。その後ろ姿を見つめ、ふと疑問に思ってしまった。

 宗介は――私をどこまで知っているのだろう。
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