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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第2章 【回想】里見くんの決意

「志織ちゃんのお兄ちゃんですか?」
「あ、はい」

 誰か――俺より少し年上、大学生くらいに見えるその女の人は、笑顔で俺に向き直る。それは、まるで、志織と俺を隔てる壁のように。

「ごめんなさい。志織ちゃんには、私の買い物に付き合ってもらっていたんです。黙って連れ出してしまってすみませんでした」
「え」
「だから、志織ちゃんを叱らないであげてくださいね。悪いのは私なので、叱るなら、私を」
「でも、あの」
「叱らないであげてくださいね?」

 頭を下げているのに、有無を言わさない威圧感と、その笑顔に、俺は頷くしかない。かわいいのに、怖い。逆らえない。

「は、い……はい」
「ありがとうございます。男に二言は?」
「ありません。ありがとうございました」
「良かったね、志織ちゃん。お兄ちゃん、怒らないって」

 志織はまだ不安そうな顔で俺を見つめてくる。だから、笑うしかない。最高の笑顔で、志織の不安を解消させるしか、ない。

「怒らないよ。無事で良かった……志織」
「お兄ちゃんっ!」

 ようやく、志織は椅子から降りて俺に抱きついてくる。小さくて細い志織を抱きしめて、ほっとする。誘拐とかされなくて、本当に良かった。
 志織の暖かさを感じながら、俺は顔を上げる。再度お礼を言おうとしたのに、その人の姿はもうなかった。
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