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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第3章 しのちゃんの受難(二)

 意気揚々と、稲垣くんは歩き出す。足取り軽く、跳ねるように。

 彼は、誰かみたいに、必死ですがりついてきたりしない。

 誰かみたいに、抱きついてきたりしない。

 誰かみたいに、私の唇を狙ったりしない。

 誰かみたいに。

 ねぇ、これが普通の反応なんだよね。きっと。
 フラれてもフラれても、何度でも立ち上がって向かってくるなんて起きあがりこぼしみたいなこと、普通じゃできない。
 普通の精神じゃできない。

 誰かさんはどれだけ打たれ強いの。
 私は教師で、彼は実習生。私は学生とは付き合わない。
 それはあと十ヵ月は変わらないのに。

「稲垣くんは、今、悲しいですか?」
「フラれたから?」
「はい」

 少し前を歩いていた稲垣くんは、立ち止まって、私に笑顔を向けてくれる。

「悲しいけど、嬉しいよ。絶対に駄目だとは言われなかったし、目標があれば頑張れるし」
「……?」

 フラれて嬉しい、なんて初めて聞いた。
 えーっと、稲垣くんはマゾなのか?
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