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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第3章 しのちゃんの受難(二)
「彼氏は募集中ですね」と笑うと、稲垣くんが立ち止まる。
……ん?
「ねえ、しのちゃん、俺じゃ駄目?」
「え?」
「彼氏に立候補しちゃ駄目? 年下の男は嫌い?」
街灯の下、稲垣くんの真剣な表情が浮かび上がる。
既視感。
この目。燃えるような、獲物を狙う目。私は最近、こんな目を見たことがある。
私は最近……狙われているのかな? 小動物に見えるのかな?
「ありがとう、稲垣くん」
「え、じゃあ――」
「ごめんなさい。私は社会人じゃないとお付き合いはできません」
「えーっ? 学生じゃ駄目なの?」
一瞬「いける?」と思った稲垣くんの表情が悔しそうなものに変わる。
「駄目です。私は、教師ですからね」
「相変わらずしのちゃんは堅いなぁ。じゃあ、生徒は好きにならないの?」
「生徒、ってだけで、もう恋愛対象には見られませんよ」
「じゃあ、教師なら?」
教師なら。
私の同僚なら。他の学校の教師なら。
お互いの生徒たちの他愛のない会話を披露して笑い合って、成績を上げる方法を話し合ったりして、夏休みにはゆっくり旅行して。
あぁ、……いいな。うん、いいなぁ。
「それなら、構わないですよ」
「俺が教師になれたら、しのちゃんと付き合える?」
「可能性は、ありますね」
「じゃあ、俺、頑張るよ。教採、頑張る」