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誰よりも君を愛する
第35章 パパ
幼なじみの和也との淡い思い出が良雄の退行催眠によって少しずつ薄れていく亜矢子はその代わりに早くに亡くなった父親を鮮明に思い出し父親との思い出話をよくするようになった‥
そして日々、良雄の優しさと愛される喜びと幸せを感じながら亜矢子自身も心の底から良雄を愛し、より深く2人は愛を育んでいった‥
『パパ‥』
良雄はまだ薄暗い朝方、亜矢子の小さな寝言で目を覚ました‥
『パァ‥パ』
よく耳を傾けると亜矢子はシクシクと泣いていた。
『亜矢子大丈夫だよ‥』
良雄が優しく頭を撫でてやると、亜矢子は安心したようにすーっと深い息を吐きまた深く眠った‥
そして亜矢子の寝言が3日程続いた時、良雄が背中をさすってやっているとびっくりした様子で亜矢子が飛び起きた‥
良雄も驚いてライトをつけた‥
『どうした?』
焦ったように亜矢子は走ってトイレに駆け込んだ‥
ガラス張りのバスルームの片隅のトイレに座り薄暗い中、亜矢子がオシッコをしながら手で顔を覆っていた。
亜矢子が寝ていた所に手のひら位の丸い染みがあった。
『やっちゃった‥』
良雄は戻った亜矢子とシーツをはがした。シーツの下にはいつもビニールカバーが敷いてあって大事にはならないが久しぶりのおねしょに亜矢子自身ショックを受けていた‥
『ごめんなさい‥旦那様、すぐに新しいシーツ敷きますから‥』
『いいよ、あと一時間でどうせ起きる時間だから‥ゆっくり朝風呂に入ろうよ‥』
すぐにお湯が溜まり良雄はしょんぼりしている亜矢子を後ろから抱いて湯船に浸かった‥
『なんの夢見てたの?寝言も言ってたぞ』
『え?‥寝言?‥覚えてない‥うーん‥何の夢見たんだろ?何て言ってました?』
『僕もよく聞こえなかったけど‥』
(今朝も、さっきの寝言はパパ‥だ)
『ごめんなさい‥いい大人が‥おねしょなんて恥ずかしい』
(あの時の退行催眠がきっかけで父親の死を鮮明に思い出したのか‥?)
この日を境に亜矢子は少しずつ変わっていった。