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Oshizuki Building Side Story
第4章 Brother complex Moon ①
 
 
「そうだ。私と陽菜ちゃんの結婚式に、早瀬須王に曲作って貰うのは「「却下!!」」」

 朱羽と同時に怒気を帯びた声を出したのは渉さん。
 
「俺聞いてねぇぞ、沙紀が須王のファンなんて!」

 ……近々、どこかで聞いたことがある台詞だ。
 途端に渉さんが、泣きそうな顔になっている。

 本当にこのひと、沙紀さんに弱いなあ。

 朱羽がぷりぷり怒って言った。

「俺も嫌だ、あんな威張り腐った男に頭下げるなんて。ちょっと年が上だからってなんであんなに偉そうなのかな、何様なんだよ! 音楽だって、今はパソコン使うんだろ!? なんで音楽の下がITなんだよ、このビルの構造からしておかしいよ! ああ、本当に。シークレットムーンに新人で勤めさせて俺、みっちり扱いてやりたい!!」

 朱羽の顔が嫌悪に歪む。

 ……八つ当たり的にも思えるが、この言葉って。

「え、朱羽、須王さんと会ってたの? 前に聞いた時、いるんじゃない程度で、全然知らんぷりだったのに」

 すると朱羽は不機嫌そうに言った。
 ……朱羽にとって、面白くない再会であることは間違いなさそうだ。

「まあ、色々とね。あいつとは相容れない人種だと思う。音楽については天才かもしれないけど、ひとのなけなしの好意を鼻でせせら笑うなんて。どっちが嫌っていると思ってるんだ」

 好意――。
 あんなに嫌っていた朱羽が好意を見せたんだ。

 ということは、なにか誤解のようなものが解けたのかな。
 たとえば、実は須王さんは朱羽を見捨てていなかったとか、なにか理由があったとか……そういうものがあれば嬉しいな。
 
「俺の兄は渉さんだけでいい」

 渉さんは微妙な顔をして、弟は朱羽だけだとは答えなかった。

 長兄で、弟達をとりまとめる立場の渉さんは、朱羽を見捨てなかったように、他二人も弟という理由で、見捨てられないのだろう。

 ただ兄に生まれたというだけの、なんて義理堅いひとなんだろう。
 こんな責任感あるお兄さんが、極悪人なわけがないのにね。

 どんなひとなんだろう、須王さんって。
 優等生な朱羽を嫌悪させるぐらい、どんな王様キャラなんだろう。
 渉さんに似ているのかな?

 もっと話し合えば、兄弟仲良くできるかな。
 
 
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