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エリュシオンでささやいて
第2章 Lost Voice
 


 一体あたしのどこがよかったのかさっぱりわからないが、あたしを雇った理由について、後日、今は亡き老齢だった前社長に言われたことがある。

 「あなたにとって音楽とはなにか」と面接で社長が聞いた時、「音楽は身を滅ぼすと同時に、ひとの心を救うものだ」と答えたのがよかったらしい。当時のあたしは、頭が真っ白だったのだけれど。

 音楽は癒やしだけではなく、デメリットもわかりながら提案しないといけないと、クラシックだけしか知らなかったあたしに色々なCDを持参しては、家で聞いて率直な感想を言うようにとの宿題を課し、あたしの環境は一度はやめた音楽に包まれることとなった。
 

 社員が慕った社長が病死したのが二年前。前社長のように音楽を愛さずに営利主義の息子が社長になって、社員の反発が激しくなった。

 千駄ヶ谷の土地を愛した前社長を無視して、木場で忍月グループに入るためにこのビルに引っ越すことを勝手に決めた時、エリュシオンの要だった優秀な人材が独立した会社で仕事をしたいとこぞってやめた。

 あたしも迷ったけれど、それでもどんな形であれ、「エリュシオンを愛して欲しい」と前社長に直接言われたことが胸に刺さり、新塚さんという庶務のおばさんとふたりだけエリュシオンに残留することに決め、二十六歳の今に至る。



 

 OSHIZUKIビルは気鋭の建築家がビルのデザインを手がけただけあって、鏡張りの外装も、飽きない内装もまるで美術館のようだ。

 すべてフロアにはテナント一社が入り、エリュシオンの下の階はシークレットムーンというIT会社が入って居て、上の階はビルに勤める社員のために解放されている、格安で美味しすぎる社員食堂パラダイスがある。

 働くには恵まれすぎたビルに、よくあの赤字続きだったエリュシオンが入ることが出来たなと思うが、そこはあの三十代で社長になった若社長の手腕か。接点がないから、どんなマジックを使ってこんな広い会社に人員を補充して、沢山の部課にわけることが出来たのかも想像すら出来ない。


 
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