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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 聖夜の恋人
「…兄さん、大丈夫?手、もう一度手当てする?」
弟の暁が心配そうに、サンルームの籐の椅子に物憂げに横たわる縣の様子を見に来た。
久しぶりの松濤の屋敷…。
縣が留守にも関わらずきちんと管理され使用人達が滞りなく仕事をこなし、屋敷が美しく整われているのはこの22歳の弟のお陰だ。

縣は心優しい弟の顔を見て、静かに笑う。
「ありがとう、暁。大丈夫だよ。こんなのかすり傷だ」
けれど暁はまだ気遣わし気に、縣の手を取る。
そして大切そうに…おずおずと包帯をした指を撫でる。
「…でも…兄さんの綺麗な手が…。どうしてこんな怪我をしたの?北白川のお屋敷でなにがあったの?」
遠慮勝ちにしかし真剣に尋ねる暁のさらさらとした美しい髪を撫でて、子供をあやすように笑いながら答える。
「何もないさ。時差ボケでよろけた時に転んだのだ。…私ももうおじさんだな」
暁は男にしておくのは惜しいような美しい顔をやや紅潮させる。
「兄さんはおじさんなんかじゃないよ。若々しくてハンサムで…凄く…凄く素敵だ…」
熱を持った…どこか切な気な眼で縣を見る暁は、縣の腹違いの弟だ。

14歳の時に、彼の実母…縣の父の元愛人が亡くなった。
縣の母は、暁が縣家に後々禍を残すのではと疑心暗鬼になり人を使い、暁を孤児院に入れる為に無理やり彼を連れ去ろうとした。
心ある部下の注進でそれを知った縣が、間一髪で駆けつけ、暁を助け出した。
そして、初めて会った小さな弟を抱きしめながら母の手の者に一喝したのだ。
「この子は私の弟だ。今後、彼に指一本触れることは私が許さない。覚えておけ!」

…それ以来、縣は松濤の屋敷に暁を引き取り、惜しみなく愛情と教育を施した。
引き取られるまでは学校にも碌に通えていなかった暁だが、生来の賢さは見事に開花しこの春、帝大を首席で卒業するまでに成長したのだ。
海外の仕事が多い縣に代わり、日本の会社の古参の重役達に揉まれながらも逞しく、経営実務をあっと言う間に身につけた。
留守を預かる暁は今や縣の片腕的存在であった。
そんな美貌のうら若き副社長の暁だが、縣の側にいられる時、彼は蕩けそうに幸せな稚い表情をする。
普段、なかなか会えないせいもあり、縣が帰国すると片時も離れずに何くれとなく世話を焼きたがるのだった。
今回の急な帰国は暁にとって嬉しい反面、兄に何があったのか気懸りでならない暁であった。





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