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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 ピガールの麗人
白いレースの立て襟のブラウスにモスグリーンの小花模様のロングスカート。髪はきちんと後ろに束ねられ、器用に結い上げられていた。
先ほどまでの濃い化粧は全て落とされ、光本来の照り映えるようなきめ細かい美しい肌に、紅も差していないのに薄桃色の美しい唇が艶めいていた。
背の高い光は、立ち姿も辺りを払うような威厳と気品があり、その姿は正に由緒正しき貴族の令嬢のそれであった。
縣とジュリアンは二人して思わず光に見惚れ、言葉を発するのを暫し忘れた。

「やあ!マドモアゼル・ヒカル、母の服が良く似合う!…こんなに美しくドレスを着こなせるのはパリ広しとは言えど、君くらいなものさ!」
美人に目がないジュリアンはすっかり光が気に入ったようだ。
光も愛想良く微笑みかける。
「お母様のドレスをお借りしたことをお礼申し上げるわ。ありがとう」
破天荒に見えながらも、きちんとお礼を述べるのはさすがの育ちの良さだった。
「全く気にしないでくれ給え。母もこんなに美しい人に着て貰えて喜んでいるはずさ」
明るいジュリアンのお喋りに漸く場も和んで来た。

縣は光に暖炉の側の長椅子を勧め、ショコラを差し出す。
「君は本当はホットワインが良いのだろうけれど、ショコラのほうが気持ちが落ち着くからね」
光は縣を見上げ、相変わらず拗ねたような表情のまま、それでも素直にショコラの入ったジノリを受け取った。
光が一口、ショコラを飲んだのを確認すると縣は光の前の長椅子に座り、静かに口を開いた。
「…話してくれないか?光さん。
君がなぜ1000フランであのような舞台に立とうとしたのかを…。私にはどうしても理解出来ないのだ。誰よりも誇り高い君が、なぜそんな行動に出たのか…」

光は暫く燃え盛る暖炉の火を見つめていたが、漸く口を開いた。
「…フロレアンの…恋人のためよ…」
縣は目を見開いた。
「恋人?…君には恋人がいるのか…。しかしなぜ恋人のために…」
「私とフロレアンは駆け落ちしたの。何もかも捨てて…」
暖炉の赤々と燃え盛る火が光の琥珀色の瞳を照らし、まるで光を別人のように浮き上がらせる。
この世のものとは思えない凄みすら感じ取れる美しさであった。
…光の今までにない凄絶とも言えるこの美貌は、恋ゆえのものであったのか…。
縣は思わず息を呑み、光を凝視した。

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