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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 ピガールの麗人
光はぽつりぽつりと今までの経緯を話し始めた。
「…フロレアンとは今年から通い始めたモンパルナスの画塾で知り合ったの。彼がたまたま臨時講師をしていて…。彼はパリ国立高等美術学校の4年生…とても才能のある画学生なのよ。それに…すごく美しいの…まるでギリシャ神話の太陽神アポロンのような金髪にエーゲ海の蒼のような瞳…私達はすぐに恋に堕ちたわ…」
そう夢見るように呟く光は柔らかなベールのようなものを纏った優しい表情をしていた。
その美しさに思わず見惚れていると、光は少し寂しげに笑った。
「馬鹿な女だと思っている?」
「…いや、全く」
縣は首を振る。
「…私も驚いたわ。…自分がこんなに簡単に恋の罠に引っかかるなんて…私は一日中、彼のことばかり考えていたわ。フロレアンの側にいたくてフロレアンのアパルトマンに移り住んだの。彼といられるだけで幸せだったから…そして一日中愛しあっていた…」
少し離れたソファで話を聞いていたジュリアンが賞賛の口笛を吹いた。
「ヒカルは梨央さんの従姉妹なのに情熱的で激しい人なんだね。amourに溢れていてフランス人みたいだ」
光はジュリアンの方を振り返り、小さく笑う。
「…以前の私はこうではなかったわ。恋に溺れる者は愚かだと馬鹿にしていた。…何も知らなかった…それなりに恋愛はしていたつもりだったけれど…無知だったのよ…」
縣は穏やかに尋ねた。
「…彼も光さんを愛しているんだね?」
光は素直に頷いた。
「ええ…。愛してくれているわ。私をとても大切にしてくれている…」
「ではなぜ今夜のようなことを?」
光は溜息を吐き、唇を噛み締めた。
「…私達の恋愛を知った父が激怒して…彼と別れて帰国するように命令してきたの。もちろん私は父にそんな気はないときっぱり言ったわ。そうしたら、ある日父の秘書達が現れて、私を強引に日本に連れ帰ろうとしたの。私は隙を見て逃げ出して…それからはフロレアンと二人、父の手の者が追って来られないような場所に隠れ住んだ…。父は私を連れ帰れないとわかると、フランス銀行やスイス銀行の私の口座から一切の預金を引き上げて、もちろん送金も打ち切って来たわ。…大学にも勝手に休学届けを出された。…兵糧攻めにするつもりなのよ」
「…何ということだ…!」
縣は眉間にしわを寄せた。
まだ若い身空の娘を路頭に迷わすような罰を下す麻宮侯爵が信じられないからだ。
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