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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 ピガールの麗人
光は肩をすくめる。
「父は北白川の叔父様と違って、国粋主義者なの。貿易商なんてしているけれど、娘が外国人と付き合うなんて絶対に許さない。女子学習院を退学になってパリのリセに留学する時も揉めたわ。母が必死に説得してくれて渋々許可したくらいだから…」
「お母様は今の光さんの状態をご存知なのか?」
「いいえ…さすがの父も母には話していないと思う。母も梨央さんのお母様に似て、身体があまり丈夫ではないの。今、京都の実家に戻って療養しているわ。…花嫁修業中の妹が付き添ってくれているけれど…そんな母に心配はかけられないわ」
縣は一つの提案をする。
「北白川伯爵に相談してみたらどう?伯爵が麻宮侯爵に二人の仲を認めるように話してくれるかも知れないよ。」
光はすぐさま首を振る。
「それだけはできないわ。叔父様にはご迷惑をかけたくないの。…うちの父は傲慢で自己主義の人だから、きっと叔父様に失礼な態度を取るわ。私は叔父様が大好きだから、叔父様にご不快な思いはさせたくないの」
「しかし…このままでは…」
光は真っ直ぐに縣を見つめた。
「あの1000フランはフロレアンの学費や絵の具代や生活費に必要だったの。彼ももちろんアルバイトしてくれているけれど、絵を描く時間も確保しなくてはならないし、学校の教授の助手の仕事もしているから忙しいの。私も夜はバールで働いているけれど…焼け石に水だわ」
良く見ると光の眼の下にはうっすらと青白い隈が出来ている。
かなり痩せてもいた。
…昨年はこうではなかった。
光は華やかなダイヤモンドのように美しくきらきら光り輝いていた。
縣は胸が痛んだ。
…今まで恐らくパンの値段も、知らなかったであろう名門貴族のご令嬢が…。
酔客相手に酒場で働いているというのか…。
愛する恋人のために…。
プライドもなにもかなぐり捨てて…。
ヌードショーに出て金を稼ぐ決意までして…。

「…酒場のアルバイトは危険だ。もう少し健全な職場はないのか?…例えば、パリに駐在している日本人の子供にフランス語やバイオリンを教えるとか…君は色んな才能があるんだから」
「…昼間より夜の仕事の方がお金がいいの…。それに…父が日本人コミュニティーに手を回したらしくて、そちらは全く門前払なのよ」
光は小さく溜息を吐いた。
こんなに儚げな光を見たのは初めてだった。
縣はやるせない思いに襲われた。



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