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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
…と、控えめなノックの音が聞こえた。
「失礼します。…あの、フロレアン・デュシャン様と仰る方が、ヒカル様にお会いしたいとお見えなのですが…」
アンヌが伝えるやいなや、光は立ち上がる。
「え?フロレアンが?」
「はい。お知り合いでいらっしゃいますか?…あ、ヒカル様?」
アンヌが慌てて声をかけた時には光は部屋を飛び出し大階段を駆け下りていた。

「フロレアン!」
光は大階段の踊り場で叫ぶ。
フロレアンは玄関ホールに佇んでいた。
美しいプラチナブロンドが輝き、彫像のように整った顔が光を見上げ、笑顔を浮かべる。
「ヒカル!」
光は滑るように階段を降り、フロレアンの胸に抱きついた。
「どうしたの⁉︎フロレアン!何かあったの?」
フロレアンは光をじっと見つめ、頬を愛しげに撫でる。
「雇い主のご家族…マレー子爵ご夫妻とお嬢さんが三日間パリに出ていらっしゃるんだ。それで僕も休日をいただいて一緒にパリに出て来たんだよ」
「そうだったの。ご家族とは上手く行ってる?お嬢さんは優しい方?」
光は姉のように心配して尋ねる。
フロレアンは微笑みながら頷く。
「ああ、皆僕のことをすごく気に入ってくれて、出来れば長期家庭教師をしてほしいと言われたよ。僕の絵も褒めてくださって、画商も紹介してくれた」
光は胸を撫で下ろす。
「良かった…!本当に…良かったわね、フロレアン!」
「…ありがとう。…君は会うなり僕の心配ばかりだね。…愛しいヒカル、会いたかったよ…」
フロレアンは光の顎を引き寄せ、唇を奪う。
「私も…私もよ…フロレアン…」
二人は暫し、熱く長い恋人同士のキスを交わす。

…縣は軽く咳払いしながら、大階段をゆっくり降りる。
「二人とも愛の挨拶を終えたら、一緒にお茶にしないか?」
光がフロレアンに抱かれたまま振り返る。
美しい白絹のような肌は薔薇色に染まり、濃い琥珀色の瞳は潤んで優しく輝いていた。
フロレアンと縣は握手を交わす。
「突然伺って申し訳ない。…ヒカルに早く会いたくて…」
「とんでもない。…プロバンスからなら小旅行でお疲れでしょう…アンヌ、お茶の支度を頼む。デュシャンさんのお席もご用意してくれ」
フロレアンはアポロンのような美貌に笑みを浮かべる。
「フロレアンと呼んでください」
「では私のこともアガタと」
「僕のこともジュリアンと呼んでね」
ジュリアンがひょっこりと顔を出す。




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