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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
母は祖父が亡くなるまでその軽蔑の眼差しを変えることはなかった。
父は実の父親の祖父を…裸一貫から財閥にまで作り上げた父親を尊敬している気持ちと裏腹にその出自を恥じている部分があった。
だから縣には幼年期から沢山の家庭教師をつけ、貴族的な生活を送らせ、誰よりも貴族的であれと厳しく躾けた。
学習院幼稚舎の学芸会でピアノのソリストに縣が選ばれ独演した時、祖父は居並ぶ観客席の父兄の誰よりも大きな拍手を送り、
「礼也!日本一!」と叫んだ。
品の良い父兄達が騒めいた。
隣に座っていた母は露骨に眉を顰めたが、縣は祖父に笑いながら手を振った。
「お祖父様!」
縣は無骨で豪快な祖父が大好きだった。

「…光は…私を嫌っているのだ…」
ふと昔の思い出に浸っていた縣の耳に、寂しげな麻宮侯爵の声が響いてきた。
「…私は妻と結婚してからは託された事業を大きくすることしか考えないで生きてきたからな。妻は陛下とも縁戚関係の名門公家の出だったから、妻が恥ずかしい思いをしないよう、とにかくがむしゃらに働いた。家名を大きくすることでしか私の存在を示せなかった。…家庭も顧みなかったし、気の利いた口の利き方も知らないし教養もない。…私と衝突するたびに光は、お父様より北白川の叔父様の方が好きだだの、北白川の家に生まれたかっただの反抗ばかりしてきた。…私は北白川みたいに美男子でもないし、洗練されてもいないし、インテリでもない。音楽や絵画や…洒落た趣味もない。光が喜ぶような言葉を掛けてもやれない。学習院を放校になりかけた時も、本当に光を心配して叱ったのだが、日本は嫌だ。パリに行きたいの一点張りだった。若い娘を一人ヨーロッパに行かせることは危険すぎる。どんな誘惑があるかわからない。なんとか事を納めて学習院を卒業させたかったのだ。だが…お父様は時代錯誤だ、北白川の叔父様ならきっと認めて下さるのに、叔父様がお父様なら良かったのにと食ってかかられた…」
その言葉を口にした麻宮侯爵の顔に悲痛な色が浮かんだ。
縣はそっと声をかける。
「本気ではないのです。…親子とは時としてつい本音でないことを口走ってしまうことがあります」
「…いや。本気だ。…光は貴族でもインテリでもない私を嫌っているのだ。だからこれからも私に逆らい続けるだろう…」
そこには先程の怒りに満ちた侯爵ではなく、寂寥に満ちた初老の父親の姿があるだけだった。
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